片恋綴


なんか、大人って憧れる。

二十歳という年齢は世間から見れば、というか一般的には大人に分類される。酒も飲めるし、煙草も吸える。それでも俺自身はまだまだ子供な気がしてならない。

「お前、あの臨時モデルの子が好きなのか」

大人である佐南さんの指摘は適格過ぎる。俺はここで否定することを無意味に感じてただ頷いた。

もうずっと片想いをしている。

言おうと思ったこともあった。だけど言えなかった。言ったところで叶うはずもない想いだし、そうしたら今のような関係も忽ち消えてしまう。

だから伝えることが出来なかった。

臆病なだけ。

「ま、実際可愛い子だもんな」

ファインダーを覗く佐南さんの横顔は本当に整っていて、それでいて大人の顔。なんでこんなにも大人に憧れるのか。

原崎さんも大人だからだろうか。

大人だったら言えるとか思っているのだろうか。

「出来ましたよ」

原崎さんのやけに陽気な声がそんなに広くないスタジオに響く。


< 30 / 146 >

この作品をシェア

pagetop