片恋綴
「……なら、千歳(ちとせ)にもそうしてやれよ。あいつ、また泣いてたぞ」
佐南さんの言葉に何処かで聞き覚えのある名前だと思ったがそれが誰かは思い出せない。
「嫌ですよ。千歳ちゃんに優しくする理由なんてないですもん」
それに原崎さんは拗ねたように言う。
原崎さんは別に女好きだとかたらしだとかいうわけではなくて、男女問わず思ったことを素直に口に出してしまう人なんだと思う。可愛いと思えば可愛いと言うし、可愛くないと思えばそれも素直に告げる。
だから、好意を持たれたり、はたまた怒らせたりする。それはどれも故意にやっていることではなくて、それでもそれを楽しんでいるのだとも思う。
そしてそれはやっぱり残酷だ。
人を好きになるって、結構美しいものだと思う。それが例え片想いでも。
なのにそれさえも、好いてくれる人がいることを楽しむというのも如何なものなのだろう。如何なもの、というより結構酷い。
でも、それでも理生は原崎さんが好きなんだと思う。