片恋綴
「撮影、始めるぞ」
佐南さんが場の空気を変えるように少し大きな声を出した。理生はそれに少し安堵したように表情を和らげる。
こんなときにも俺は何も出来ない。
何も言ってやれないし、何もしてやれない。
当の原崎さんはすっかり仕事の顔になり、佐南さんの指示を的確にこなしていく。それを少しうっとりとした表情で眺める理生。
やめておけよ、とか俺が言ったらどうなるんだろう。
そんなことをふと思いながら、ライトの位置を調整する。小さなセットに囲まれた理生は本当に綺麗で、そんな存在を好きだと思う自分がちっぽけに感じられた。