片恋綴
「貴様如きが俺の妹と親しくするな」

美春と話していると嫌な声が聞こえてくる。

「結城」

結城春樹。俺の大学時代の同期で、美春の兄だ。

「親しくなんてしてねぇよ」

俺が返すと結城は整い過ぎた顔を煩わしそうに歪めた。美春のまるで小動物のような顔立ちとは全く似ていない。

「というか、何でお前がここにいるんだよ」

ここは、俺の仕事場だ。即ち、撮影スタジオ。美春は短期のアルバイトをしてくれているからいるのだが、結城がここにいる理由は何もない。

「妹がここで働いていることが心配で堪らなくてな」

「何でだよ」

元々は結城の紹介で美春はたまに短期のアルバイトをしてくれるようになったのだ。

「お前みたいな変な虫が可愛い妹にちょっかい出さないかだ」

結城は冗談でも何でもなく、至極真面目な顔で言う。結城が俺の気持ちを知っているはずはない。この男は昔から重度のブラコンなのだ。

唯一人の妹が可愛くて仕方無い奴。

「お兄ちゃん。佐南さんはそんなことしないから」

美春が慌てたように言うが、俺はそれを心の中で否定する。

──いや、こいつに想う相手がいなかればわからない。

「いや、わからない。恋人とも別れたようだしな」

情報が早い。千歳と別れたのはつい先日だというのに何故知っている。そう考えた後、真宏の顔が脳裏に浮かんだ。

大方、今しがた真宏にでも聞いたのだろう。

何で俺の周りはこうも厄介な奴ばかりが集まるんだ。


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