片恋綴
「佐南さーん」

底抜けに陽気な声に苛立ちが募る。

「真宏。お前、結城に余計なこと言っただろ」

俺が振り向き様に睨んでも真宏は素知らぬ顔をしていた。真宏は根っからの悪戯好きで、人のフィルムを勝手に現像してしまったり、困ったことばかりをする。

「余計なことじゃないですよ。真実を言っただけです」

そんな真宏はしれ、とそう返してきた。

確かに千歳と別れたのは事実ではあるが、それは結城に報告する必要のないものだ。こいつは結城が俺に突っ掛かってくるのをわかっていて、わざわざそれを報告したのだ。

「だって、美春ちゃんて鈍そうだから、周りから固めていかないと佐南さんの気持ちに気付かないかなって」

真宏はやけににやにやしながら言う。そんなことをしたところで何の意味もないというのに。

「別に俺は美春とどうこうなろうなんて思っちゃいねぇよ」

俺が答えるなり、真宏はにやけ顔をやめて今度は怪訝な表情を作った。辺りにはスタッフ達が機材を片付ける音が夕焼けの中に響く。

「嘘でしょう」

真宏は怪訝な表情のまま口を開く。

片付けをするスタッフの中には美春もいて、誰かと笑顔で話していた。


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