それぞれの物語
「来夢?」
「うん。」
「良かった、来夢なのね。ママよ。」


声はいつもの優しい母の声だった。

「来夢、明日は学校が休みね?」
「う、うん。」
「さっきお友達のお母さんにお願いしたんだけれど、今日はお友達の家に泊まりなさい。」
「えっ?ママも泊まるの?」
「いいえ、ママは違うわ。」

「だけど来夢は、お友達とも寝れるわよね?」

母のその問いかけに
なぜだか寂しさを覚えた私は聞き返した。

「帰っちゃ、駄目なの?」

「・・・駄目よ。絶対に駄目よ。」
「どうして?明日、ママに会える?」
「・・・明日?会えるわよ。」
「今、服を取りに行っちゃダメ?」
「服は今からママが届けに行くわ。」
「絶対?」
「来夢、どうしたのよ、珍しく甘えんぼさんじゃない」
「うん。だってママに会えないのやだもん。」

その言葉をいい終えた後、母はしばらく黙って
「大丈夫、行くからね、また後でね」
と言って電話を切った。
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