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プロローグ

-1-

まだ小学3年生だった頃、わたしの周りにはヒナちゃんがいて、たっちゃんがいた。

いつだったかな。

そうだ、夏が終わって秋がやって来る頃。
まだ半そでのTシャツに汗がにじむ季節だった。
確か、わたしとヒナちゃんは学校の図書室で本を読んでて、たっちゃんだけ先に帰っちゃったんだよね。
その日のお夕飯はカレーだったのをはっきり覚えてる。
カレーは、たっちゃんの大好物だったから。

「ばいばい」

たっちゃんはいつも寂しそうだった。
まだ幼稚園の時に、お父さんとお母さんが離婚したっていうのは知ってた。
たっちゃんには新しいお母さんがいて、傍目から見ても厳しい人だった。
たっちゃんが家族で出かけるのは親戚との用事くらいで、
遊園地なんてとてもじゃないけど行けなかった。
わたしのお母さんがかわいそうだって言い出して、
よくたっちゃんをわたしと一緒にテーマパークへ連れていってくれた。

わたしは一人っ子だから、たっちゃんのことは、まるで本当の姉妹みたいに思ってた。

優しくてしっかり者のたっちゃんをわたしは大好きだった。
ううん、今でも大好き。

けど、たっちゃんはあの日を最後に学校に来なくなった。

次の日になって、またその次の日になって、何日経ってもたっちゃんの席は空のままだった。
先生は急な転校だってみんなに言った。
突然過ぎて、わたしとヒナちゃんは唖然としてしまった。

わたしが斜め前のヒナちゃんを見て、教卓の先生を見て、もう一度ヒナちゃんを見た時、
ヒナちゃんは長い睫の大きな瞳から、
これまた大きなダイヤモンドみたいな涙を零してた。
見てるとだんだんわたしも悲しくなって、
ハンカチが重たくなるまで延々と泣いてたっけ。

あの夏の終わり、たっちゃんは一緒にどこかへ行こうってわたし達を誘ってた。
けど、「たっちゃんは塾があるでしょう?」って、優等生のヒナちゃんがたしなめると、
たっちゃんはショボショボ帰って行ってしまった。

そして、二度と会えなくなった。

今思えば、たっちゃんなりのおねだりだったのかも、なんて。
少なくとも、高校生になったわたしにはそう思えるのです。
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