Return!!
-7-
やがて、わたし達はお店の並ぶ通りを抜け、何回か角を曲がって住宅街のようなところに出た。
住宅街って言っても、わたしがいつも見ているような街並みじゃない。
朱色や褐色の壁に大きな円柱の柱――これも鮮やかな朱色!――に、変わった形の瓦の屋根。
窓はほとんどが丸くて、ガラスははまっていない。何もはまっていないか、格子に障子紙みたいな薄い紙が張ってあるだけ。
映画のセットみたいに見えるんだけど、ここにいる人達のふるまいは本当に自然で、作り物じゃないんだって納得してしまう。
「着きましたよ」
今まで見たどのお屋敷よりも大きなお屋敷。
ううん、お屋敷というより、小さなお城って感じ。
高い塀で囲まれていて、門から扉までは、長い階段が続いていて、鎧を着た人が何人もウロウロしている。
そんな物々しい建物の前で、リリスゥの足がピタリと止まったので、わたしは面食らってしまった。
「さて」
わたしをゆっくりリリスゥの背中に降ろして、エンリくんは自分だけひょいっとリリスゥから飛び降りる。
「手を」
手が差し出された。
「は、はい……」
意味もなく顔に熱が上がってくる。
わたしはエンリくんの手を取って降りようとしたんだけど、手を掴んだ瞬間、引っ張られて、
そのままエンリくんの方へ体重を預ける形になってしまった。
抱きしめられるようにして身体を支えてもらい、ゆっくりと足先を地面に着けてくれた。
うわぁ、恥ずかしい……。
心臓がバクバク言ってる。
顔が泥で汚れてるから、多分、真っ赤になってるのはバレてないよね?
わたしは、自分の身体が汚れていることに初めて感謝した。
「あっ!! エンリ!!」
振り向くと、女の子が通りの向こうから駆けて来るところだった。
「ミウチェ様」
エンリくんが頭を下げた。
わたしより少し背が高い女の子。
年上かなぁ。
濃い栗色の髪をお団子にして、かんざしみたいな花の飾りをつけてる。
血色のいい肌がいかにも健康そうで、はちみつ色の瞳がきらきらと輝いていた。
「あら、どなた? 見かけない方ね」
彼女は、わたしの様子を見ると、さっと近寄ってきて手を取り、髪を優しく撫でた。
「大丈夫? どこからか逃げてきたの?」
「えっと……」
言い淀んでいると、エンリくんが助け舟を出してくれた。
「人買いの仕業のようです。どういうわけか、近くの湿原ではぐれたらしくて……」
「…………」
ミウチェさんは話を聞いて、悲しそうに黙ってしまった。
けれど、わたしの手をしっかり握り締め、「もう大丈夫よ」と声をかけてくれた。
かわいらしいけれど、すごく安心出来る声だ。
「あ、ありがとう……ございます……」
ミウチェさんは、笑顔も最高だった。
「エンリ、彼女は? お父様に取り次ぐ?」
「ええ、そのつもりです」
「分かったわ」
ミウチェさんはしっかり頷くと、わたしの手を引いた。
「えっ?」
訳がわからなくなっていたのは、わたしだけじゃなかったみたい。
「あの、ミウチェ様、一体何を?」
エンリくんが言うと、ミウチェさんは笑った。
「うふふっ、大丈夫よ。何にもしやしないわ」
しばらくはここに居るんでしょ? と言って、彼女は少しいたずらっぽくウィンクしてみせると、わたしを階段の方へと連れて行ってしまった。
住宅街って言っても、わたしがいつも見ているような街並みじゃない。
朱色や褐色の壁に大きな円柱の柱――これも鮮やかな朱色!――に、変わった形の瓦の屋根。
窓はほとんどが丸くて、ガラスははまっていない。何もはまっていないか、格子に障子紙みたいな薄い紙が張ってあるだけ。
映画のセットみたいに見えるんだけど、ここにいる人達のふるまいは本当に自然で、作り物じゃないんだって納得してしまう。
「着きましたよ」
今まで見たどのお屋敷よりも大きなお屋敷。
ううん、お屋敷というより、小さなお城って感じ。
高い塀で囲まれていて、門から扉までは、長い階段が続いていて、鎧を着た人が何人もウロウロしている。
そんな物々しい建物の前で、リリスゥの足がピタリと止まったので、わたしは面食らってしまった。
「さて」
わたしをゆっくりリリスゥの背中に降ろして、エンリくんは自分だけひょいっとリリスゥから飛び降りる。
「手を」
手が差し出された。
「は、はい……」
意味もなく顔に熱が上がってくる。
わたしはエンリくんの手を取って降りようとしたんだけど、手を掴んだ瞬間、引っ張られて、
そのままエンリくんの方へ体重を預ける形になってしまった。
抱きしめられるようにして身体を支えてもらい、ゆっくりと足先を地面に着けてくれた。
うわぁ、恥ずかしい……。
心臓がバクバク言ってる。
顔が泥で汚れてるから、多分、真っ赤になってるのはバレてないよね?
わたしは、自分の身体が汚れていることに初めて感謝した。
「あっ!! エンリ!!」
振り向くと、女の子が通りの向こうから駆けて来るところだった。
「ミウチェ様」
エンリくんが頭を下げた。
わたしより少し背が高い女の子。
年上かなぁ。
濃い栗色の髪をお団子にして、かんざしみたいな花の飾りをつけてる。
血色のいい肌がいかにも健康そうで、はちみつ色の瞳がきらきらと輝いていた。
「あら、どなた? 見かけない方ね」
彼女は、わたしの様子を見ると、さっと近寄ってきて手を取り、髪を優しく撫でた。
「大丈夫? どこからか逃げてきたの?」
「えっと……」
言い淀んでいると、エンリくんが助け舟を出してくれた。
「人買いの仕業のようです。どういうわけか、近くの湿原ではぐれたらしくて……」
「…………」
ミウチェさんは話を聞いて、悲しそうに黙ってしまった。
けれど、わたしの手をしっかり握り締め、「もう大丈夫よ」と声をかけてくれた。
かわいらしいけれど、すごく安心出来る声だ。
「あ、ありがとう……ございます……」
ミウチェさんは、笑顔も最高だった。
「エンリ、彼女は? お父様に取り次ぐ?」
「ええ、そのつもりです」
「分かったわ」
ミウチェさんはしっかり頷くと、わたしの手を引いた。
「えっ?」
訳がわからなくなっていたのは、わたしだけじゃなかったみたい。
「あの、ミウチェ様、一体何を?」
エンリくんが言うと、ミウチェさんは笑った。
「うふふっ、大丈夫よ。何にもしやしないわ」
しばらくはここに居るんでしょ? と言って、彼女は少しいたずらっぽくウィンクしてみせると、わたしを階段の方へと連れて行ってしまった。