Return!!

-3-

いつもとおんなじ放課後。
けど、晴れていたはずの空はいつの間にか雨雲に埋め尽くされてた。
グラウンドにしとしとぽつぽつ大粒の雨が落ちていく。

「ほら、傘入って」
ヒナちゃんはピンクのかわいい傘を差しかけてくれた。
ホント、お姉ちゃんみたい。

わたしとヒナちゃんは小さめの傘に2人で入って家路を急いだ。
週頭に夏服着用命令が出たばっかりで、こんなふうに突然雨が降ると最悪。
白地のセーラー服は冷たい空気を通してばっかりで、
徒歩15分の家路も辛くてたまらない。
この町は山に近くて、6月に入ると途端に雨も降りやすくなる。
分かってるんだけどね。
降る時に限って、持って行こうとして忘れたとか、
今日は持っていかない気分だから持って行かなかったとか、そういうことが多い。
つくづく私は抜けてるんだなーって。
頭では分かってるんだよね、ホント。
学校を出て並木道をまっすぐ歩いていく。

時々、タクシーがサラリーマンを拾って走り去った。
寒いから、2人共口数は少ない。
ぱしゃぱしゃ水溜まりを踏んでいった。

「あのね」

ヒナちゃんが俯きがちに声をかけてきた。
「うん?」
「実は……」
言い淀んでいると、後ろから「東城さん!!」って男の子の声がかかった。
2人で振り返る。
わたしは呼ばれてないんだけど、気になるよね。
俺の後ろに立つな……って、ちょっと違うかな?

「小林君?」
ヒナちゃんが首を傾げた。
その声にぎょっとして、わたしは慌ててヒナちゃんの後ろに隠れるように身を引いた。
「どうかした?」
ヒナちゃんが、こうもり傘を差して立っている男の子に声をかけた。
すると、小林君は教室で他の男子と話してる時よりもずっと小さい声を出した。
「あー……えっと……」
「何か用事かしら?」
「えー……っとぉ……」
小林君の目が、一瞬、ヒナちゃんの目を盗んでこっちに向く。
なんだか嫌な空気だった。
すごく怖い目。
陸上部のキャプテンで背が高くて力もありそうな小林君。
「わ」
息が詰まっって、声がひっくり返った。
けど、何とか頑張って言葉を発した。
「わ、わたし、先に帰るねっ! それじゃあっ」
「咲(さく)!!」

わたしは思わず逃げ出すように走っていた。
ヒナちゃんならすぐ追いつける速さだろうけど、今のわたしにはそんなことどうでもよくって。

とにかく逃げたかった。
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