Return!!

-7-

今日は曇りだった。
昨日の夜から雨が降ってて、ぐずついたまま後を引いていたのだ。

「やっぱりまずいよ。バレたら……」
正直者のヒナちゃんは、きっと、こういうコソコソしたことは嫌うだろうな。
そんなことを考えながらも、マキちゃんの言う"小林君の企み"に関心を抱かずにはいられなかった。

つまるところ、心配だったんだ、わたしは。

乾かないままの石畳の商店街を人ごみに紛れて2人の後を追っていく。
2人はポツポツ会話してるみたいだったけど、少し離れて歩いてるから何を話してるのかは分からない。
口数は小林君のほうが多い。

マキちゃんとわたしは、それこそドラマの探偵みたいに尾行を続けた。
雑貨屋さん、アイスクリームの屋台、CDショップと色んな場所を抜けて、次に2人が入ったのはちょっと高級な喫茶店。
さすがに入るわけにもいかないから、わたしとマキちゃんは物陰で待機することにした。
商店街の通りに建った小さな時計塔はちょうど17:00になったところだった。

「ほい、コーラ」
「あ、ありがとう」
自販機で缶ジュースを買ってきてくれて、わたしたちは建物の陰で休憩した。
「ヒナ子、大丈夫かな」
コーラのしゅわしゅわを口に感じていると、マキちゃんが心配そうに言った。
「大丈夫だよ」
「だといいんだけど」
それからずっと学校行事とテレビドラマの話をしてた。
期末テストの範囲だとか、バラエティー番組の司会の女子アナがどうだとか、マキちゃんの話題は尽きない。
それこそ、ヒナちゃんのことなんて忘れちゃったのかと思うくらい!

「ありがとうございました」

どれだけ時間が過ぎたんだろうか。突然、耳に店員さんの声が飛び込んできて、わたし達はだらけきった身を引き締めると、物陰からこっそり様子を伺った。
この短時間で、わたしは忍者かスパイか盗賊か、そんなものになったようだった。
息を殺すのも上手くなってる気がする。
それとも、わたしが空気に流されやすいだけなのかな?
単純っていうか。

「ご馳走様」
お店から出てきたヒナちゃんが小林君に頭を下げた。
「いいって、俺の勝手なんだから」
「ありがとう」
心なしか、ヒナちゃんの表情はさっきまでよりも柔らかくなっていた。
「後ちょっとだけ付き合ってくんね?」
ヒナちゃんは少し迷ってから、コクリと頷いた。
「じゃあ、行こ」
小林君がすばやくヒナちゃんの左手を取った。
驚いたみたいだったけど、ヒナちゃんは手を振りほどこうとはせず、小林君と一緒に、また、通りを歩く人達の中に紛れていった。
「あんにゃろ~っ」
小声でマキちゃんが白い歯を見せ唸った。
牙があったらその先端がギラギラ光っていそうなくらい。
「でも、マキちゃん。ヒナちゃんそんなに嫌そうじゃなかったよ」
わたしが言うと、マキちゃんが呆れたみたいな目をした。
「騙されてんのよ。小林のヤツ、調子いんだから」
マキちゃんはマキちゃんで、目の奥がチロチロとたぎっていた。

触れちゃいけない、そんな気がして、わたしはマキちゃんをなだめることが出来なかった。
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