あなたのギャップにやられています
「ありがとう、冴子」


私にしか聞こえないような小さな声で、もう一度そんなことを言うから、もう涙を我慢できなくなって。


「ごめん、トイレ」

「うん」


彼のハンカチを握りしめながら、私はトイレに駆け込んだ。

思えば、彼のデザインがはじめて採用されたとき、あまりに嬉しくてトイレで号泣してしまった。
その時も真っ赤な目で戻って来た私に、彼はやっぱり「ありがとう」と言ってくれた。


嬉しいときは、トイレ。
そんなのなんだか変だけど、私にとってトイレは大切な場所だ。


「冴子さん」


しばらく個室で喜びを噛み締めていると、外から私を呼ぶ声がして。


「はい」


慌てて出ていくと雅斗が待っていて、きちんとスーツのジャケットを着ていた。

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