あなたのギャップにやられています
「ちょっと、雅斗!」
小声で抗議したけれど、全く素知らぬ顔をした彼は、私の手首を引っ張って歩き出す。
「でも、やっぱり冴子と行きたいから」
そう言った雅斗は、美術館のチケットを2枚購入した。
あれ? 言ったもん損じゃない?
だけど、やっぱり来てよかった。
それは絵が素晴らしかっただけではない。
雅斗の真剣な眼差しを見ることができたからだ。
どの絵の前でもきちんと立ち止まって、食い入るようにじっと絵を見つめて。
私なら、どんなに好きな絵でも、こんなには入り込めないだろう。
なにかを話しかけるのをためらうような彼の雰囲気は、他の人とは違っていた。
「あっ」
「どうしたの?」
「いや、ごめん」
思い出したように私の手を握った雅斗は、ばつの悪そうな顔をする。
でもいいの。
絵が好きなあなたが一番魅力的だから。