あなたのギャップにやられています

胸が痛い。痛くて痛くて、たまらない。
だけど、私があなたにしてあげられることは、もうこれしか……。


「私、雅斗と結婚したってまた木崎じゃない。
お嫁に行って名前が変わるのが私の夢だったの。
そうじゃないと、ずっといき遅れみたいで、イヤなの」


自分でも、下手すぎる嘘だと思った。
だけど、頭が上手く回らなくて、それくらいしか言えない。

目の前の雅斗が怒りに震えながら唇を噛みしめるのを見ていられなくなって、視線を逸らして空を見上げた。


「冴子。お前、本気で?」


流れていく雲を目で必死で追いかけて、泣くまいと我慢していると、いつもよりずっと低い雅斗の声がする。


「本気、だよ。私はいつだって本気。
ごめん、ひとりで帰れないから部屋まで送って? 荷物まとめてあるから出ていくね」


できるだけ気丈に振舞ったつもりだ。
抑揚もなく、淡々と言葉を紡いで。




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