あなたのギャップにやられています
「くそっ」
それから雅斗は苛立ちを隠すことなく、しばらく私から離れて、あの大きなブナの木に拳を何度も何度もぶつけていた。
「もう止めて。
その手は絵を描くのに必要なんでしょ? そんなプロ意識もないの?」
もう見ていられなかった。
数々の素晴らしい絵を作り出すあなたの手は、私にとっても宝物なの。
私なんかのために、ダメにしないで。
「冴子にはわからない。俺がどれだけ……」
私だってこのままあなたと結婚できたら、それなりに幸せな生活が送れると思う。
でもね、ずっと後悔を抱えて生きていくの?
チャンスは誰にでもあるわけじゃない。
幸せは自分でつかむものなの、雅斗。
祈るような気持ちで彼を見つめていると、「帰ろう」と言った彼は私を車に乗せた。
私はそれ以降、一言も話すことができなかった。