あなたのギャップにやられています

雅斗は困惑し、私は気を張っていた。

一度吐いた嘘は、もう二度と撤回しない。
そのくらいの覚悟で口にしたのだから。


部屋に戻ると、私はまずタクシー会社に電話を入れて、タクシーを手配した。
雅斗はその様子を、ボーッと見つめているだけで、なにも言わなかった。


そして私は、アトリエにしていた部屋に行って、彼が描いてくれた私のヌードを持ち出した。


「この絵、もらっていい?」

「あぁ」


雅斗が魂を込めて描いてくれた大切な絵。

ここには、私たちの楽しかった日々が凝縮されているような気がするのだ。
未練がましいかもしれないけれど、どうしても手元に置いておきたい。


胸が一杯で、それ以上は言葉が出てこなくて、黙々と荷物をまとめる。
雅斗に内緒で、もういくつかの荷物は運びだしていたし、残りの荷物はまとめて押入れに隠しておいたから、あとは身の回りの物をまとめるだけでいい。


最後に、いつも使っていた雅斗とおそろいのマグカップを手に取ると、涙が溢れそうになってこらえた。

自分で決めたこととはいえ、かなり辛い。
嫌いになったわけじゃなく、むしろ好きが増しているから。



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