あなたのギャップにやられています
「冴子、今度は飲みに行こう」
「ありがとうございます」
「ゆっくり、していけ」
そう言った部長は、私の分の伝票も持って席を立った。
部長にきちんとお礼も言えなかったな。
そんなことをぼーっと考えながら、ストローの袋で結び目を作る。
部長は泣きそうな私を見て、ひとりにしてくれたのかもしれない。
ポタリと流れ落ちた涙の粒が、ストローの袋をふやかした。
喫茶店で気持ちを落ち着けてから会社に戻る途中で、スマホが震えて驚く。
スマホをまだ変えていなかった私は、もしかしたら雅斗からの電話なのかもしれないなんて期待している自分に気が付いて呆れる。
自分から別れると言っておいて……。
だけど、それは部長からのメールだった。
言い忘れた。
木崎は今週末に発つそうだ。
今週末?
思っていたよりずっと早くて動揺する。
早いに越したことはない。
もうすでに、なんとかさんというアーティストを待たせているのだから。