あなたのギャップにやられています

「雅斗君、来るかしら?」


バッグの中からファンデーションを取り出して鏡を見始めるのは、いつもの光景だ。


「雅斗は来ないわよ」

「えー、なんだぁ」


頬を膨らませて拗ねてみせたって、えーっと、かわいくないですから……。

恋する乙女はゲンキンだ。
百合ちゃんは雅斗が来ないとわかると、すぐにファンデーションをバッグに放り投げた。


「ちょっと、久しぶりなんだから呼びなさいよ」

「呼べないよ。だって、別れたもん」

「あー、そうだったわね。って、ちょっと冴! 今、なんて言ったの!」


冴って……いつの間にか呼び捨てになってるし。
しかもノリ突込みときた。


「別れた、の?」


口をあんぐり開けて血走った目で、私を見つめるのはよして。
怖すぎるからね、百合ちゃん。


「ちょっと落ち着きなさい。取りあえず、肉を頼むのよ!」


落ち着きがないのは百合ちゃんの方だし。
でも、肉は頼むわよ。

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