あなたのギャップにやられています
そして、持ってきた小さな絵を私に見せた。
「これ……」
「イギリスに行くから、これが最後ですって。
売れたらどこかに寄付してくれっていうんだけど、とても売る気にはなれなくてねぇ」
それは、まぎれもなくあの丘の絵だ。
月の明るい夜に、ブナの木の下で、カップルが寄り添っている。
そのふたりはシルエットだけだったけれど、どう見てもキスをしているのだ。
「マスター、あのっ……」
体が震える。
雅斗の絵は、いつだって私の感情を揺さぶる。
「木崎君、本当はこれを木崎さんに渡したかったんじゃないかなって。だからこれは木崎さんに」
マスターは私に絵を手渡しながら、少し困った顔をした。
「嫌いになった、訳じゃなさそうだし。お互いにね」
「頑張れ」と小声でつぶやいたマスターは他の客に呼ばれて行ってしまった。