あなたのギャップにやられています

「美味しいんだもん、雅斗」


もう泣くのを我慢できない。

“男をつかむならまず胃袋から”なんて言葉があるけれど、胃袋をつかまれたのは私の方だ。
だけど……もちろん胃袋だけじゃない。まるごと全部彼に持っていかれちゃった。

雅斗を失った私は、すべてをなくしてしまった気さえしていた。


寝室にはテレビの代わりに、二十号サイズの私のヌード。

これが自分だと思うと恥ずかしいけれど、それでも雅斗が全精力を傾けて描いてくれたものがそばにあることがうれしい。

彼の息遣いを感じられるようなこの絵は、一生私の宝物になるだろう。


そして……マスターから手渡されたもう一枚の絵は、最初にもらった月夜の絵と同じくらいの大きさで、写真立てに入っていた。

これ、いつ描いたんだろう……。

残務整理や仕事の仕上げで、とてつもなく忙しかったはずなのに。


雅斗のことだ。
寝ないで描いたに違いない。

彼は、絵に没頭し始めると、眠ることすら忘れてしまうのだ。

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