あなたのギャップにやられています

「おーい。頑張ってるんでしょうね!」


空に向かって話しかけてみたけれど、当然返事なんてない。
私はバッグの中から雅斗が最後に残していった絵を取りだした。

さすがに大きな裸体は持って来られないから。


キスを交わしているカップルのシルエットに触れると、なんだか無性に泣きたくなってしまう。


「くそー。木崎冴子、負けるな!」


自分にそう言い聞かせてみたけれど、やっぱり負けるときは負けるんだと知った。
流れた涙が、ぽたりと膝に落ちた。



すぐに日が暮れ始めて、ひとつふたつと星がきらめき始める。

初めてここに連れてきてもらったとき、その美しさに感動して思わず手を伸ばしたっけ。


もっと星に近寄りたくなって立ち上がると、バッグの中のスマホが突然鳴った。
それは、戸塚部長からだった。

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