あなたのギャップにやられています
「冴」
「は、はい」
「もっと英語、勉強しなさい」
なにを言い出すかと思えば。
「どうして?」
「どうしてって、高校英語じゃイギリスで苦労するわ」
「イギリスって、行かないから。画廊で働くって言ってるじゃない」
「チッ」
その時、百合ちゃんの"男"の舌打ちの音がした。
ちょっと怖いんだけど……。
「まったくふたりともじれったいというか、勇気がないというか」
今度は呆れた顔をしている百合ちゃんに、返す言葉もない。
確かに、雅斗を追いかけていく勇気なんてない。
だけど、私はあの時決めたのだ。
雅斗が満足するまで絵に没頭できるように、決して邪魔をしないことを。
そして、いつか私が彼の中で思い出になったとしても、それでも彼には絵を捨てて欲しくないと。
この間、部長にもらった雑誌を見て、もしかしたら雅斗はまだ私を思い出にしていないんじゃないかって淡い期待も抱いた。
だけど、彼が日本に戻ってこないというのは、まだ自分に満足していないからなんだと思う。