あなたのギャップにやられています

「すみません、私……」

「いらっしゃいませ」


私が口を開こうとすると、私の肩越しに客を見つけた堀川さんは、私から離れて行った。
慌ててモップを片付けて振り向くと、知った顔があって固まる。


「随分お早かったですね。
こちらはアシスタントの木崎です。なにかあれば私か木崎に。
そういえば、木崎って名前、同じですね」


堀川さんの言葉にうまく反応できず、立ち尽くしている私をクスッと笑ったのは……。


「初めまして。同じ苗字の木崎さん。口、開いてますよ」


いつもと同じ、いつもの調子で笑う雅斗にちょっと呆れる。
なにが『初めまして』よ。
口くらい開くわよ、この状況。


「す、すみません」

「失礼しました。それにしても、どうしてあなたほどの方が、こんな小さい画廊で個展を?」

「ここに私の一番の理解者がいるからです。
私の絵をずっと昔からいいと言ってくれていた人が」


私から視線を逸らさない雅斗に、堀川さんも気がついたようだ。

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