あなたのギャップにやられています
番外編 SS
忘れられない女
イギリスに経つと決めたのは、冴子の心遣いに応えたかったからだ。
泣きそうな顔をして俺に別れを告げた彼女は、嘘をつくのが下手すぎて笑える。
だって、結婚しても苗字が変わらないから嫌って、どんな嘘だよ。
だけど、上手い嘘のひとつもつけない彼女のことが、好きでたまらないのだ。
戸塚部長は、公私にわたって俺の師匠のような人だった。
部長に、冴子から課せられたという俺をイギリスに行かせるための任務を聞いて、言葉を失くした。
自分のことはなにも考えず、俺のためだけに動いてくれていた冴子が、ますます愛おしくなった。
パッケージデザインのような制約のある絵ではなく、自分の描きたい絵を認められることは俺の長年の夢だ。
だけど、自称画家なんて腐るほどいる世界で、成功を手にできるのがほんの一握りだとわかっていた。