蕾は未だに咲かないⅠ
あたしは逃げ出す運命を待ちわびていた。
事故で鶴来さんに奪われた失われた日常を、ずっと取り戻したかった。取り戻さなきゃならなかった。
あたしの手首を痣がつくくらいに強く握り締めて、撫で回すように首筋から肩へ舌を這わせていく。
逃げる訳がない。逃げる気も湧かない。
ただ“これだけ”の事。これだけすればあたしは解放されるのだ。何て簡単な事。
「――ねえ」
ふと声をかけたあたしに、輔さんは反射的に顔を上げた。