蕾は未だに咲かないⅠ
予兆
◆
すっかり慣れた煙草の匂いに見向きもせず、真っ直ぐカウンターに向かうと、椅子に座る前に目の前のスキンヘッドの男を睨むように見た。
「…また“獣の暴走”か?」
そして答えを聞く前に、高く設定された椅子に腰を降ろした。
スキンヘッドの男は、透明なグラスを一つ拭き終わってから重たそうに口を開く。
「獣と言うより、あれは立派な殺人鬼だな。殺傷能力を擦り込まされたみてえだ。」
こいつはまた、正直な感想を述べてくれるもんだな。本人に聞かれたら目で殺されるぞ。