蕾は未だに咲かないⅠ
あたしが“帰れない”ということを念押しするように、彼が笑顔で言う。別に何もされないのなら逃げる気はないのに。
てか別邸、って…。中庭みたいなの凄かったのに。本邸じゃないんだ。すごいな…。
あたしの困惑を察したのか、輔さんはまた微笑んで首を傾げ、次は質問を投げた。
「明津ちゃんは…何で車の前なんかに出たのかな?」
無意識なのか、その言葉を言った後に輔さんが少しだけ身構え、瞳の奥を冷やすのが分かる。
明らかな、拒絶。
あたしが泣き喚きでもするのだと思ったのだろうか。縋るとでも思ったのだろうか。
「偶々です。」