蕾は未だに咲かないⅠ
思わずあたしは鶴来さんを見る。彼は無表情に、あたしを一瞥しただけ。
「あの…」
「お前、此処がどの辺りか分かっただろ。」
「へ?」
首を傾げるあたし、逃走未遂犯。若干この人の冷たさにも慣れてきてしまった。
“此処がどの辺りか”?
「……逃げただろうが。」
「ああ…いや、あの此処がどこかとかはサッパリ…」
「簡単には帰せねぇぞ。」
ちらりと見えた八重歯が、彼の凶悪さを醸し出す。
思わずあたしは出かけた口を閉じ、ぎゅ、と掌を握り締めた。