蕾は未だに咲かないⅠ
車が動き出し何処かに移動する間、あたしを抱き上げていた人はじっとこちらを見ていた。
痛みに堪えるあたしを見ては、車が傾くたびに抱きしめる腕の力を強める。
何だか不定期なそれを心地良く感じてきたあたしは、痛みを感じながらも睡魔に襲われていた。
目を、ゆっくりと伏せる。
その人の顔は、何も変わらなかった…と思う。どんな顔なのか、暗闇と不安定な焦点から全然分からないけれど。
ただ、最後に急かすような声だけが聞こえた。
「冷えてきた。」