蕾は未だに咲かないⅠ


車が動き出し何処かに移動する間、あたしを抱き上げていた人はじっとこちらを見ていた。

痛みに堪えるあたしを見ては、車が傾くたびに抱きしめる腕の力を強める。

何だか不定期なそれを心地良く感じてきたあたしは、痛みを感じながらも睡魔に襲われていた。


目を、ゆっくりと伏せる。

その人の顔は、何も変わらなかった…と思う。どんな顔なのか、暗闇と不安定な焦点から全然分からないけれど。


ただ、最後に急かすような声だけが聞こえた。


「冷えてきた。」


< 7 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop