雨情物語⑤<雀の涙>
海へと向かう下り坂は、大雨が降ると川のように水が流れていきます。


ばしゃりばしゃりと雑な音をたてながら、海へと続く細い道を下っていくと、一羽の雀が泣いておりました。


――― こんなところでどうしたのです?


『雨に絡まって身動きができないのです』


かわいそうに。
切り通しを流れる雨は、市街地に小川を作る雨とは質が違います。

もっと濃度が高い、粘着質な雨の流れ。
小さな雀など、風切り羽の隅々にまで雨に浸食されて動けなくなるのも当然です。

かわいそうに。
かわいそうに。


かわいそうとばかり言っている暇があったら雀を救出しろ、と?

それもそうです。困っている者があれば、手を差し伸べるのが当然の義務。


わたしは、傘を肩と顎で支えると、小首をかしげた姿勢で雀を両手のなかに包み込みました。
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