雨情物語⑤<雀の涙>
小さくて儚いその命は、確かに温かくて拍動しています。


温かいものに触れると、涙が出るのはなぜでしょう。

生命維持の為の体温は、他人の心さえも温かく弛緩させるものなのでしょうか。


あぁ、と妙にストンと納得がいき、わたしはハンカチで雀を拭いてやりました。


――― この雨はあなたの涙なのですね。

何百年も泣き続けた涙は、雲に帰ることなく地表に残り、その粘性は増すばかりなのです。


『確かに鎌倉は都なのです』

雀はつぶやきました。

『ここに、すべてを懸けて戦った者たちがいたのです』


時間は流れるのです。
時代もまた流れるのです。

『坂東武者は…、確かにここに存在したのです』


――― 御前。

わたしは、雀に最大の敬意を払いました。自分より、下の者がいるなどとは思ってはならないのです。たとえ、身動きもままならない小さな存在であっても。
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