Chain~この想いは誰かに繋がっている~
どうして俺は、今になって気づくかな。

チラチラと、俺達を見ていく通りすがりの人たち。


彼女は恥ずかしそうに、周りを気にしているようだった。

「ありがとうございます。でも、もう田舎に帰るって決めたので……」

彼女の言葉に、茫然とする俺。

彼女が、田舎に帰ってしまう。

彼女が、この街からいなくなってしまう。


嫌だ。

嫌だ!そんなの!!

軽くお辞儀をして、地下鉄に乗ろうとした彼女に、俺は何を思ったのか、静かに話し始めた。


「俺、君の事をずっと見ていた。」

振り向いた彼女を置いて、地下鉄は去って行く。

「仕事を遅くまでして、疲れて眠ってるところとか、乗り過ごしそうになって、起こしてあげた事もあった。」

「あっ……」


気づいてくれた?

そうだよ。

あの時、君は一目散に地下鉄から走って降りて行った。

「痴漢に遭っている君を、助けた事もあった。」

ありがとうも言わずに、もういなくなってしまった君に、密かにイラついてたっけ、俺。
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