Chain~この想いは誰かに繋がっている~
「そうだよなあ。引越しの手続きも終わってるんだろうし。新しい生活に、気持ちも片寄ってるもんなぁ。」

地下鉄の天井を見ながら、俺はチラッと彼女を見た。

肯定している表情。

もう引き返せない、彼女の決意の表れだった。


一方で、俺はそんな彼女の顔を見たくなくて、地下鉄の次の列車が来るかどうか、掲示板を見た。

「あっ、もう少しで次が来る。」

わざと大きな声を出す。

時間は5分後。

別れのラストシーンには、ちょうどいい時間かもしれない。


「田舎に帰るんだよね。」

「はい。」

あっさりとした返事に、返って俺は戸惑いを隠せない。

「あっちに行っても、元気で頑張って。」

平常心を装った。

彼女にばれないようにしたけれど、どうだったのかな。


だってそうだろう

今から、新しい田舎でも暮らしが待っているのに、知り合いでもない俺が、涙ながらに彼女をしつこく引きとめたら、それこそ彼女、本気で引くだろう。
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