Chain~この想いは誰かに繋がっている~
ゆっくりと動きだす地下鉄が、彼女を俺の知らない世界へと連れて行く。

最後の最後、彼女が見えなくなるまで、俺の姿を見つめてくれていたのは、錯覚だったのかな。


彼女が乗った地下鉄が、遠くの穴に吸い込まれて、見えなくなった。

けれど俺は、なにも感じなかった。

普通こんな場面、友人や家族なら、「あ~あ、行っちまった。」なんて、感傷的な一言がつくものだ。


「大体、なんで俺、あの子に話しかけたんだろう。」

おかしい。

どう考えたって、おかしい。

話しかけたところで、彼女が東京に残ってくれるわけでもないし、俺と親しくなるわけでもない。


「そうだ。俺、夢みてたんだよ。そうだ、そうだ。夢だ。」

俺は自分に言い聞かせると、それで彼女との呆気なさすぎる、別れの時間に、なんとかピリオドを打った。

「映画。映画を観に行こう。」

夢の世界から覚めたばかりだと言うのに、また、夢の世界へと行きたくなった。
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