Scarly Rules
夕闇の傘
(ガチャ)
玄関先でドアの開く音がした。
恭平坊っちゃまのご帰宅だ。
(パタパタ)
いつものように
私は走っていって主人の鞄を預かる。
「お帰りなさいませ。御主人様。」
御主人様もまた
いつものように靴を脱いで 無言で歩き出す。
私の台詞を聞いてない…わけではないみたいだけど いつもそう。
「よっ!お疲れ。んじゃあ 俺はそろそろお暇しようかな。」
「おぉ。ありがとな。」
マサさんがソファから立ち上がってリビングを後にする。
それをただ手を振って見送る恭平。
いつもなら玄関まで送ってくくせに。
もしかしてバレた?
でもそんなわけ…。
普通にしてたつもりだし…。
額に妙な汗をかきながら なんとか平静を装いテーブルに置いたティーカップに手を伸ばす。
「で?どうだった?」
(プハッ)
唐突に話かけられ 私はつい、口にした紅茶を吹き出してしまう。
「汚ねぇなぁ。高いんだぞ?この服。」
燕尾服にかかった紅茶をハンカチで拭きながら恭平がぼやく。
「す!すみません。直ぐにクリーニングを…」
テーブル脇の電話から、メイド室へと内線を飛ばそうとしていると
「…いい。」
恭平様が私の手を電話から離す。
「洗濯は後でいい。」
はっきりそう言うと
そのまま私を抱き寄せた。
「恭平…?」
不思議に思って顔を覗きこんでみる。
「…なぁ お前さ、気づかなかったわけ?」
「へ?」
なんだろう。