Be yourself!
「それ、朝入れてもう時間経っちゃってますからね。淹れなおしましょうか」
「いや、いい。もったいねえし。目を覚ましたいだけだから」
彼は大きな欠伸を一つした後、ソファーにドカッと腰を下ろし、長い足を組んで天井を見上げた。
「お仕事だったんですよね? その、スタジオの」
手帳を見ながら問いかける私。
「ああ。夜通しレコーディングに立ち会ってた。まじねみぃ……」
多聞さんはアルバイトの一環で、ほかのアーティストの曲のアレンジャー(編曲者)もやってるんだって。
そして小次郎さんも、銀二さんも、スタジオミュージシャンだったり、知り合いのアーティストのツアーメンバーをやっていたりする。
それが本業よりも稼げているという現実は、なかなか厳しいものがあるけれど、メジャーデビューしたところで音楽で食べられるようになるにはかなり時間がかかるのは周知の事実。
Saw Atの場合、まだ音楽関係の副業だから、ずっと恵まれているらしい。