Be yourself!
確か御子柴律って、二十代後半くらいだった。
十年以上【赤と黒の蜘蛛】を引っ張ってきた人が……解散を口にするって、これって大ニュースだよ!!!!
「――そこは、話し合いの余地があるって信じたいわ」
奥田さんが厳しい表情のまま、御子柴律を見上げる。
けれど御子柴律は彼女の抗議の視線を受けても特に動揺した様子もなく「じゃあ俺はこれで」と、支えていた手を離し、また軽快に階段を駆け下りていった。
えらいことを聞いてしまった……。
「――あの……このこと、誰にも言いませんから」
誰もいなくなった廊下で、おそるおそる口を開く私。
「ええ、そうして。まだ一部の人間しかしらないことだから」
奥田さんは、深くため息をついたあと、赤いセルフレームを押し上げながら、私を振り返る。