惚れられても応えられねーんだよ
友達の友達から可愛いって言われたい
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僕、田中和也(たなか かずや)、16歳。
僕は今、野田宗司朗(のだ そうじろう)さんという何でも屋さんを経営している男の人の所で学校帰りにバイトに励んでいます。
趣味は、トップアイドル、アッコちゃんのおっかけ。
アッコちゃんのこととなれば財布の紐が緩み、年がら年中金欠です……。
「おい、和也、ブレスレットの写真、もう一回見せろ」
黒髪の天然パーマで乱暴な口利きの人が宗司朗さん。上下黒い服がお気に入りで、よく似たのを何着も持っている。年は29歳。来年30になるって一時騒いでましたが、今は受け入れる覚悟ができたみたい。
今日の仕事は、落としたブレスレットを今日中に探すという依頼の元、商店街に来たのです。
「落としてから3日も経ってて警察にも届けられていないんじゃ、誰かに拾われて持って行かれた可能性が高いですね」
「だなー、なんか高いブレスレットとか抜かしてやがったが、それなら余計もうねーだろ……って」
宗司朗さんは何かに気付き、さっと身を電柱に隠す。
「えっ、何やってんですか? 宗司朗さん」
「おいっ! お前も隠れろ! 和也!!」
僕は強引に引っ張られ、宗司朗さんの後ろに隠れた。
「何なんですか? ブレスレットパクってつけてる人でもいたんですか?」
「ちげーよ!! そんなんじゃねーよ! んなことはどーでもいいんだよ!」
「つーかあんた仕事しろよ! そのために今日ここに来たんでしょーが!って……あれっ?」
通りをよく見ると、知った顔が1つ。しかも、着物を着た綺麗な女の人を連れて、手まで繋いでるぅ!!!
「あれっ、今日はいつもと違って綺麗な人とデートですね」
もう1人の何でも屋メンバー、天然の雅(みやび)ちゃんが隠れるどころか、わざわざ話しかけに行った!
僕はすぐさま岬さんの前に飛び出した雅ちゃんの服を引っ張り、
「あっ、岬さんこんにちわー。なんか今日はいい天気ですねー」
「おい今、いつもと違ってとか言わなかったか!? この女」
やっ、ヤバい!! 雅ちゃんが誤解を招くようなこと言うから怒ってるよ岬さん!!
「いやっ、そんなこと言ってないよねー!??」
僕はもう何も言えないように、雅ちゃんの足を思い切り踏んづけ、喋れないようにする。
「ならいーんだけど。そこ、どいてくれる? デートの邪魔なんで」
岬さんは女の人手を引いてそのままスル―していく。
岬さんは新堂さんほどじゃないにしても、ルックスもいいし、強いから、女の人にモテるんだろう……いいな……。
「あれっ、こんな所にブレスレットが落ちてる」
女の人の声に僕は後ろを振り向いた。
「落ちてる物なんか拾うのやめときなさいよ。新しいブレスレットなら、俺が買ってあげますから」
「ちょーっとこれ、見せてくれるかなぁ!?!?」
隠れていた宗司朗さんは、このタイミングを逃してなるものかと、2人の前に堂々と現れ女の人の手からブレスレットを取る。
「なんだ、宗司朗さんもでしたか。落ちてる物拾って換金なんてみっともねぇマネ、やめてくださいよ。普段なら窃盗罪で現行犯逮捕ですが、今は俺も休暇中だから見逃してやりますよ」
なっ、なんか腹立つ!!!
おそらく宗司朗さんも同じ思いだったんだろう、
「あそっかー、今日はいやに可愛い子連れてると思ったら前回の子はもう振っちゃったんだねー。邪魔しちゃってメンゴメンゴ……」
岬さんはものすごい速い動きで宗司朗さんのコメカミに人差し指を立てると低い声で囁いた。
「前回の子が何だって? いくら宗司朗さんでも、雪乃の前でふざけたことばっか抜かしやがったらぶち抜きますぜ?」
この女に本気だよ、この人!!!
「あっ、その服可愛い! そういう洋服探してるんですけど、この辺りだとどこに売ってますか? 」
その雪乃さんは野郎の話なんか全く無視で、雅ちゃんに話しかけている。
「これ、和也の姉貴が作ってくれたの。こういう花柄の丁度いい丈のワンピースってなかなかなくて」
「そうですよね……。私、今日は岬さんが貸してくれた着物を着てるんですが普通の服を買いに来たんです」
「そうなんですか。商店街で着物着てる人って言ったら普段から着てる人くらいだから、てっきりいつも着物の人かと思いました」
「ううん、着物なんて来たの何年ぶりか分からないくらい。だから自分で着付けられなくて、大変でした」
「じゃあ今日は誰かに着付けてもらったんですか?」
僕は何気に聞く。だがこの一言で雪乃さん以外の全員が口をあんぐり開くことになるとは、この時は思いもしなかった。
「新堂さんが、着せてくれたんです」
「あのー、俺、思うんだけどね、この中で1人だけ勘違いしてる奴がいると思うんだよね。俺じゃなくて、俺らじゃなくて、1人」
宗司朗さんは口元を隠しながら、それでも本人に聞こえる声の大きさで耳打ちする。
「宗司朗さん、マズイですよ。本人傷ついてるんですから」
僕はそのフォローのつもりでオブラートに包んで「本人」と言ったが、きっと悪い顔をしているに違いない。
「岬さんなら大丈夫でしょ。例え自分の上司に彼女寝取られても、逆に燃えるタイプでしょ」
雅ちゃんはただ面白がっているだけだろうけど、岬さんの怒りが徐々にこみあげてきているのが分かる。
「ま、まあまあ。ここはひとつ、皆でパフェでも食いにいかね? ブレスレットも見つけてくれたし、奢るから、ね? 岬くーん、君の気持ち、よーく分かるよ? あの堅物上司に女取られたなんて、死んでも認めたくないよね。 けどまあ、ここは落ち着いて、ね? 一応上司だしー、アイツ撃っても彼女の心は戻って来ないから、ね??」
宗司朗さんが岬さんの肩を組んで慰めている間、女子たちは勝手に話を進めていく。
「宗司朗さんの驕りだから気ぃ遣わなくていいよ。よかったら姉貴に相談して、服作ってもらってもいいし。洋裁の専門学校行ってるからプロも同然だし」
「ええーそんな、何から、何まで……」
「ナニって言っても、とりあえずはファミレスでちょっと食べるだけよ、気にしないでどんどん注文していいよ」
先にファミレスに向かう2人に、
「俺、どんどんとは言ってないよッ!! 一言も言ってないからねッ!! ちょっとパフェ食べに行こうって言っただけだからねーッ!!」
「宗司朗さん、手ぇどけてください」
ずっと無言だった岬さんはようやく我に返り、肩から宗司朗さんの手を払いどける。
「新堂の野郎は確実に仕留めます。帰ったら即首削ぎ落として雪乃の部屋に並べてやりますよ」
岬さんッ!! かっ、顔が超怖いんですけどッ!!!
「あっ、おーい、雅ちゃん!!」
2人の姿は角で曲がり、見えなくなってしまう。
「宗司朗さん、俺は本気ですよ。今日もパフェ食ったら帰りますよ。こっちはデート気分なんです」
「らしーな、悪りぃ、悪ィ……。しかし、アイツもまさか、部下の女取るまで腐ってたとは……」
「けど新堂さん、そんなことするかな……。いくらなんでも、岬さんの彼女だなんて……。何かの間違いじゃないんですか?」
「いやだって、本人が言ってんだよ? 新堂に着物着せてもらったって……どう考えたってそりゃ、普通じゃ有りえないでしょ。着せるって言って何から何まで色々して、そんでアレしたんだよ。な?」