惚れられても応えられねーんだよ
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「すみません、私まで頂いてしまって……パフェ、美味しいです」
ファミレスのボックス席に腰かけ、奥から雅ちゃん、宗司朗さん、僕、と並ぶ前に雪乃さんと岬さんは揃っていた。
雪乃さんは名前の通り、雪みたいに白くて綺麗な上に、とても女の子らしくって、岬さんの彼女にはもったいないくらいだ。
ちょっと大人っぽいけど、23歳の岬さんよりは年下な気がする。
「あへっ、あぁ、いーのいーの!! いや、俺もパフェ好きなんだけど、なぁんかパフェ頼む男って草食な感じがするしィ? けど、時代はクールな肉食男子じゃない? 俺なんかいーっつもブラックコーヒー飲んで喉を潤してるっつーか、遠くを見つめてるっつーか……」
「なんですか? 宗司朗さん。いつもは甘党でパフェ浴びてるような男が」
と言いつつ岬さんも普段は飲まないブラックコーヒーをすすっている。
それを見ていた雅ちゃんは、
「男はブラックコーヒー飲んでる方が大人っぽいだなんてそんなこと誰も思ってないよね。用はお金があるか、信用があるか、度胸があるか、よね。雪乃さん?」
と、宗司朗さんと岬さんを特に気にせず、美味しそうにパフェを食べている雪乃さんに聞いた。
「えっ、えーと、うーんと、そう、かな……」
やっぱ普通の女の子だ、雅ちゃんのドストレートな質問にも困っている。
「そんなこと急に言われても分かりませんよね」
僕がすかさずフォローを入れたのに宗司朗さんは、
「うるせー、和也は黙ってろ。草食だからって女子会に参加できると思うなよ、モヤシヤローが」
「モヤシ言うな! モヤシって結局は草食ってことだろーが! 草食好きにはウケるってことだろーがッ!!」
「違う違う。 だからモテないのよ。モヤシヤローは」
雅ちゃんは綺麗な顔をして、平気で毒口を吐く。酷いがいつものことだ。
「それ食ったら買物行きますよ。こんな所でちんたらしてたら日が暮れちまう」
岬さんはカップをソーサーに戻して雪乃さんに話しかけた。
「和也の姉貴に作ってもらうって話したでしょ、今」
雅ちゃんは年上の岬さんにお構いなしの態度だが、
「着物を買いに行くんだよ。俺が着付ける。少なくとも、あのブタよりはうまく着付けられますよ」
そういえば岬さんは呉服屋の息子だった。やっぱり着物を着た女性が好みなんだろう。
「でも私、明日から仕事しないといけないから、慣れてない着物じゃ動きづらいし……」
「掃除なんて、着物が汚れない程度に適当にやっときゃいーんですよ。俺なんて靴の裏に泥もつきませんよ?」
オメーはもっと仕事しろー!!!
「あ、私、明日から新堂さんの秘書になれって言われて……」
…………。
み、岬さんの顔が、めちゃくちゃ怖いんですけどッ!!!
「秘書は上司の言うことに逆らえねーよなぁ。ナニしろって言われりゃ、嫌が負うでもナニしなきゃなんねぇ。だけど、いやいやな顔しながらも従順に従うその姿がまた……」
「宗司朗さん、そういうツンデレみたいなの好きだよねー」
雅ちゃんは妙に納得した様子だが、
「ちょっ!! 宗司朗さん! 誰もそんな風に思ってないから! すみません雪乃さん! 誰も新堂さんがそんな人だとは思ってませんからっ!!」
と言ってその場を収めたつもりだったが、隣では岬さんが目をきつく閉じ、眉間に皴を寄せている。
「でも私、秘書になれって言われた時、すごくうれしかったんです」
雪乃さんは静かに話始めた。
「だって秘書ってカッコいいし。身よりのない私にそんな重要な役を任せてくれて……だから私、良かったと思ったんです。
岬さんはこうやって、休みの日に服を買いに連れて行ってくれるし、新堂さんは、信用して仕事を任せてくれるし。
だから、頑張りたい」
「俺は反対ですよ」
岬さんは、雪乃さんをしっかり見つめて言う。
「新堂の秘書じゃなくて、俺の秘書になればいい」
「お前主任じゃねーか。それ程度なら紙の仕事なんかねーだろ」
宗司朗さんが岬さんを宥めるように言う。
「俺だって色々ありますよ。よりにもよって新堂になんて……」
「仲……悪いんですか?」
雪乃さんは心配そうに岬さんに聞く。
「悪いってもんじゃあないですよ……」
岬さんは、そっぽを向いて答え、
「おい、お前」
急に雅ちゃんを呼んで、テーブルの上に二万円置いて立ち上がった。
「これで一緒に服買ってやってくれ。俺は用を思い出したんで先に帰りますよ」
「えっ!? 」
雪乃さんは不安な顔をして、つられて立ち上がる。
「明日の仕事に間に合うように、服選んで来てください」
そう言い残して、そのまま店から出て行ってしまう。
1人、取り残された雪乃さんは、口を閉ざしてしゅんと俯いた。
「あーあ、ガキだねー、ほんっとアイツは。あ、おねーさん、パフェ一丁」
宗司朗さんはようやくいつもの調子を取り戻したのか、パフェを注文する。
「新堂さん、そんな悪い人には見えなかったんですけど……」
「いやまあ、新堂はそういう意味では悪い人だけど、そういう意味では悪い人だけどもね、まあ、そういう意味では悪い人だけど」
「何回悪い人連呼するんですか!! ただの悪い人じゃないですか、ソレ!!」
「岬のことは、ほっときゃいーよ。どせー今頃、新堂に楯突いて逆に、打ちのめされてるだろーから」
「すみません、私まで頂いてしまって……パフェ、美味しいです」
ファミレスのボックス席に腰かけ、奥から雅ちゃん、宗司朗さん、僕、と並ぶ前に雪乃さんと岬さんは揃っていた。
雪乃さんは名前の通り、雪みたいに白くて綺麗な上に、とても女の子らしくって、岬さんの彼女にはもったいないくらいだ。
ちょっと大人っぽいけど、23歳の岬さんよりは年下な気がする。
「あへっ、あぁ、いーのいーの!! いや、俺もパフェ好きなんだけど、なぁんかパフェ頼む男って草食な感じがするしィ? けど、時代はクールな肉食男子じゃない? 俺なんかいーっつもブラックコーヒー飲んで喉を潤してるっつーか、遠くを見つめてるっつーか……」
「なんですか? 宗司朗さん。いつもは甘党でパフェ浴びてるような男が」
と言いつつ岬さんも普段は飲まないブラックコーヒーをすすっている。
それを見ていた雅ちゃんは、
「男はブラックコーヒー飲んでる方が大人っぽいだなんてそんなこと誰も思ってないよね。用はお金があるか、信用があるか、度胸があるか、よね。雪乃さん?」
と、宗司朗さんと岬さんを特に気にせず、美味しそうにパフェを食べている雪乃さんに聞いた。
「えっ、えーと、うーんと、そう、かな……」
やっぱ普通の女の子だ、雅ちゃんのドストレートな質問にも困っている。
「そんなこと急に言われても分かりませんよね」
僕がすかさずフォローを入れたのに宗司朗さんは、
「うるせー、和也は黙ってろ。草食だからって女子会に参加できると思うなよ、モヤシヤローが」
「モヤシ言うな! モヤシって結局は草食ってことだろーが! 草食好きにはウケるってことだろーがッ!!」
「違う違う。 だからモテないのよ。モヤシヤローは」
雅ちゃんは綺麗な顔をして、平気で毒口を吐く。酷いがいつものことだ。
「それ食ったら買物行きますよ。こんな所でちんたらしてたら日が暮れちまう」
岬さんはカップをソーサーに戻して雪乃さんに話しかけた。
「和也の姉貴に作ってもらうって話したでしょ、今」
雅ちゃんは年上の岬さんにお構いなしの態度だが、
「着物を買いに行くんだよ。俺が着付ける。少なくとも、あのブタよりはうまく着付けられますよ」
そういえば岬さんは呉服屋の息子だった。やっぱり着物を着た女性が好みなんだろう。
「でも私、明日から仕事しないといけないから、慣れてない着物じゃ動きづらいし……」
「掃除なんて、着物が汚れない程度に適当にやっときゃいーんですよ。俺なんて靴の裏に泥もつきませんよ?」
オメーはもっと仕事しろー!!!
「あ、私、明日から新堂さんの秘書になれって言われて……」
…………。
み、岬さんの顔が、めちゃくちゃ怖いんですけどッ!!!
「秘書は上司の言うことに逆らえねーよなぁ。ナニしろって言われりゃ、嫌が負うでもナニしなきゃなんねぇ。だけど、いやいやな顔しながらも従順に従うその姿がまた……」
「宗司朗さん、そういうツンデレみたいなの好きだよねー」
雅ちゃんは妙に納得した様子だが、
「ちょっ!! 宗司朗さん! 誰もそんな風に思ってないから! すみません雪乃さん! 誰も新堂さんがそんな人だとは思ってませんからっ!!」
と言ってその場を収めたつもりだったが、隣では岬さんが目をきつく閉じ、眉間に皴を寄せている。
「でも私、秘書になれって言われた時、すごくうれしかったんです」
雪乃さんは静かに話始めた。
「だって秘書ってカッコいいし。身よりのない私にそんな重要な役を任せてくれて……だから私、良かったと思ったんです。
岬さんはこうやって、休みの日に服を買いに連れて行ってくれるし、新堂さんは、信用して仕事を任せてくれるし。
だから、頑張りたい」
「俺は反対ですよ」
岬さんは、雪乃さんをしっかり見つめて言う。
「新堂の秘書じゃなくて、俺の秘書になればいい」
「お前主任じゃねーか。それ程度なら紙の仕事なんかねーだろ」
宗司朗さんが岬さんを宥めるように言う。
「俺だって色々ありますよ。よりにもよって新堂になんて……」
「仲……悪いんですか?」
雪乃さんは心配そうに岬さんに聞く。
「悪いってもんじゃあないですよ……」
岬さんは、そっぽを向いて答え、
「おい、お前」
急に雅ちゃんを呼んで、テーブルの上に二万円置いて立ち上がった。
「これで一緒に服買ってやってくれ。俺は用を思い出したんで先に帰りますよ」
「えっ!? 」
雪乃さんは不安な顔をして、つられて立ち上がる。
「明日の仕事に間に合うように、服選んで来てください」
そう言い残して、そのまま店から出て行ってしまう。
1人、取り残された雪乃さんは、口を閉ざしてしゅんと俯いた。
「あーあ、ガキだねー、ほんっとアイツは。あ、おねーさん、パフェ一丁」
宗司朗さんはようやくいつもの調子を取り戻したのか、パフェを注文する。
「新堂さん、そんな悪い人には見えなかったんですけど……」
「いやまあ、新堂はそういう意味では悪い人だけど、そういう意味では悪い人だけどもね、まあ、そういう意味では悪い人だけど」
「何回悪い人連呼するんですか!! ただの悪い人じゃないですか、ソレ!!」
「岬のことは、ほっときゃいーよ。どせー今頃、新堂に楯突いて逆に、打ちのめされてるだろーから」