惚れられても応えられねーんだよ

あからさまに嫉妬されたい



 奴を殺りたい……その一心で竹刀を振ったのに……。

 怒りで我を忘れて、逆にやられた。

 岬は寮の敷地内にある道場で1人仰向けになって大の字で倒れ、ぼんやり天井を眺めていた。
 
雪乃を秘書にするって事は、結局自分の女みたいに囲いたいだけじゃねーか。堂々と言うのが怖くて、こそこそうまく仕事与えて自分の思い通りにしたいだけじゃねーか!!
 
こっちは振られないように、逃げられないように手ぇ繋いで仕事までさぼったっていうのに……(サボるのはいつものことか)、ムカつく、腹立つ!!  

何がお前が好きなら好きにすりゃいい、だ。一日の3分の1も一緒に居るように自分で仕向けといて!! 俺が入る隙失くそうとしやがって!!!

「ここに居たんですか! 探しましたよ」

 俺は雪乃の声に慌てて顔を元に戻す。そして、無心で天井を見つめた。

「お金、ありがとうございました。服は和也さんのお姉さんが作ってくださるということで、とりあえずの服は貰いました。それで、ハーゲンダッツだけお土産に買いました。残りのお金は……」

「新堂と一緒にいるための服なんて、なんでもいーだろぅよ」

「えっ……」

 雪乃が戸惑っている。分かっているのに、止められない。

「新堂とナニするための、服なんていらねーだろうよ?」

 いけねぇ、いけねぇって分かってるのに、やまらない。

「……私、そんな風に仕事するつもり、ありません」

 ……分かってる……。

「…………、剣道……ですか? この竹刀。……練習してるんですね……」

 雪乃は投げ捨ててあった竹刀を手に取り、「ワッ」と声を出す。

 俺は慌てて起き上がった。

「重い!! 竹刀ってこんな重かったでしたっけ??」

 両手で抱え、不思議そうに眺めている。

「……中に鉄が入ってるんだよ。重り。軽い木で練習するより腕力が鍛えられる」

「でもこれ、すごく重い!! これ、両手でこうやって……こうするんですよね?」

 雪乃は、両手で持ち上げ、振り落とす。それだけでもようやく、といった感じだ。

「あ! 朝練ってこれですか?」

「そうですよ。俺は高校のインターハイで優勝してます。新堂にも負けませんよ」

 さっきは気分が乗らなかっただけで、普通にやり合えば中島さんにだって劣らない。

「私でも、練習すればできるようになるかな……」

 雪乃は一生懸命竹刀を振り上げ、振り下ろす。

「女なのにそんなことしなくても。いざとなりゃ……」

「岬さんが助けてくれたじゃないですか、昨日」

 雪乃は俺をじっと見つめてきた。

「私も、いざって時に備えたい。少しでも、役に立ちたい。この竹刀も、今はすごく重いけど、練習すれば振れるようになりますよ、きっと」

 言いながらも、すぐに振るのをやめた。予想通り体力はあまりない。

「んじゃ、俺が稽古つけてあげますよ。いきなりその竹刀じゃ何もできませんよ? まずは普通の竹刀で……」

「私も朝練、参加していいですか?」

 そんな顔で言われて、断れるわけがねェ。

「俺がサボりの日はサボりですよ?」

「私はサボりません」

 雪乃はにこやかに笑いながら、髪の毛を揺らす。

 あーあ……そんな可愛い笑顔出したら、新堂の野郎がトチ狂うじゃねーか……。
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