惚れられても応えられねーんだよ
強い男に助けられたい
♦
会議室は物々しい厳戒態勢でピリピリしている。遅れてやってきた中島を中心に、新堂と連携しながら指示を出していく。
その後ろでポツンと立ち尽くす、私。
侵入者なんて、そうそうあることなのだろうか?
守衛がやられたそうだが、どんな風にやられたのか? 目的は一体何だろう?
次々に疑問が浮かんだが、みんな私のことなど構っている余裕はない。
コトン、コロコロコロコロ……。
バタバタした中、音に気付いて、足元を見た。黒い真ん丸の塊が、ゆっくり転がっている。
誰か落とした? と思い、後ろを見たが誰もいない。
鉄の塊が重そうで、これが何なのか全く判別がつかない。
「伏せッ!!!!」
顔を覆う、スーツ。
丁度青色のネクタイが頬に触れ、その生地がシルクであることを知る。
誰かが覆いかぶさって、というよりは抱き着いてきた、という方が近い。後頭部には手が回され、思い切り後ろに倒れにも関わらず、痛みはほとんどない。
爆発音の後、次に気付いたのは火薬の匂い。それと同時に煙がその辺り中に広がり、咳き込む声やうめき声があちこちで上がる。
身体は完全に床の上。その上にいるのは咳き込む声で分かる、新堂だ。
体重がかかっていないので重くはない。
更に煙幕の中で、誰かの叫び声がし、ガシャンと金属が落ちたような音がする。
「えっ」
落ちたナイフの持ち手が手に触れた。すぐそこで、何かが起きている。
だが、煙で何も見えない。分かるのは、ナイフに手が届いているということだけ。
新堂が完全に身体をよけ、咳き込みながら立ち上がろうとし、失敗して足が崩れた。ケガをしているのかもしれない。
私は、思い切って手を伸ばし、ナイフを掴んだ。
サバイバルナイフは想像以上に重くて大きい。
今日の朝、普通の竹刀で素振りをした記憶が一気に蘇る。
私は、力づくで立ち上がった。
もし犯人が相手が襲いかかってきたら、ナイフで威嚇しなければならない。
そう考えただけで緊張と興奮が入り交り、手が震え、持っているのがやっとの状態になる。
息が乱れ、薄くなった煙を少し吸っただけで咳き込んでしまう。
「…………!!」
その一瞬、煙が途切れて視野が広がった。
防護マスクの男が確実にこちらの位置を捉え、近寄ってくる。
私は咄嗟に手を離した。ナイフはそのまま落ち、相手の防護マスクを眺めることしかできない。
「雪乃!!!!」
左上から飛んできた岬に気付いたのと、岬がマスクの男を締め上げたのは同時だった。
「見てて下さい。人を護るってーのは……」
岬はバランスを崩すマスク男に躊躇もせず、腕を掴んで馬乗りになり、慣れた手つきで素早く拳銃をコメカミに当てる。
「こうするんですよ」
その真後ろから「ぐあ」といううめき声が聞こえる。咄嗟に振り返った私の顔に血しぶきが飛び、頬を赤く染めた。
マスクのせいで男の顔は分からなかったが、その声は尋常ではない。
銃の暴発によって手から吹き出す血、震える男の身体、尋常ではない雄叫び。
今度は違う方向からうめき声が聞こえる。
それと同時に私の左手の甲が生温かくなった。
見なくても分かる。
血。
温かい。
血が、温かい。
眩暈がして、うまく立てなくなる。
「どうしたッ!?」
岬であろう手が背中に触れたが、そのまま地面に落ちてしまった。頭が、重い。
「雪乃!!! 」
「おい総悟!!! んなのほっとけ!! 」
新堂の荒々しい声が聞こえる。
こんな殺戮の場で血を見て倒れるなんて、邪魔以外の何者でもない。
薄れゆく意識の中で、私は血の匂いを思い出していた。
吹き出す血は温かい。
先日触れた血も、そういえば温かかった気がする。
会議室は物々しい厳戒態勢でピリピリしている。遅れてやってきた中島を中心に、新堂と連携しながら指示を出していく。
その後ろでポツンと立ち尽くす、私。
侵入者なんて、そうそうあることなのだろうか?
守衛がやられたそうだが、どんな風にやられたのか? 目的は一体何だろう?
次々に疑問が浮かんだが、みんな私のことなど構っている余裕はない。
コトン、コロコロコロコロ……。
バタバタした中、音に気付いて、足元を見た。黒い真ん丸の塊が、ゆっくり転がっている。
誰か落とした? と思い、後ろを見たが誰もいない。
鉄の塊が重そうで、これが何なのか全く判別がつかない。
「伏せッ!!!!」
顔を覆う、スーツ。
丁度青色のネクタイが頬に触れ、その生地がシルクであることを知る。
誰かが覆いかぶさって、というよりは抱き着いてきた、という方が近い。後頭部には手が回され、思い切り後ろに倒れにも関わらず、痛みはほとんどない。
爆発音の後、次に気付いたのは火薬の匂い。それと同時に煙がその辺り中に広がり、咳き込む声やうめき声があちこちで上がる。
身体は完全に床の上。その上にいるのは咳き込む声で分かる、新堂だ。
体重がかかっていないので重くはない。
更に煙幕の中で、誰かの叫び声がし、ガシャンと金属が落ちたような音がする。
「えっ」
落ちたナイフの持ち手が手に触れた。すぐそこで、何かが起きている。
だが、煙で何も見えない。分かるのは、ナイフに手が届いているということだけ。
新堂が完全に身体をよけ、咳き込みながら立ち上がろうとし、失敗して足が崩れた。ケガをしているのかもしれない。
私は、思い切って手を伸ばし、ナイフを掴んだ。
サバイバルナイフは想像以上に重くて大きい。
今日の朝、普通の竹刀で素振りをした記憶が一気に蘇る。
私は、力づくで立ち上がった。
もし犯人が相手が襲いかかってきたら、ナイフで威嚇しなければならない。
そう考えただけで緊張と興奮が入り交り、手が震え、持っているのがやっとの状態になる。
息が乱れ、薄くなった煙を少し吸っただけで咳き込んでしまう。
「…………!!」
その一瞬、煙が途切れて視野が広がった。
防護マスクの男が確実にこちらの位置を捉え、近寄ってくる。
私は咄嗟に手を離した。ナイフはそのまま落ち、相手の防護マスクを眺めることしかできない。
「雪乃!!!!」
左上から飛んできた岬に気付いたのと、岬がマスクの男を締め上げたのは同時だった。
「見てて下さい。人を護るってーのは……」
岬はバランスを崩すマスク男に躊躇もせず、腕を掴んで馬乗りになり、慣れた手つきで素早く拳銃をコメカミに当てる。
「こうするんですよ」
その真後ろから「ぐあ」といううめき声が聞こえる。咄嗟に振り返った私の顔に血しぶきが飛び、頬を赤く染めた。
マスクのせいで男の顔は分からなかったが、その声は尋常ではない。
銃の暴発によって手から吹き出す血、震える男の身体、尋常ではない雄叫び。
今度は違う方向からうめき声が聞こえる。
それと同時に私の左手の甲が生温かくなった。
見なくても分かる。
血。
温かい。
血が、温かい。
眩暈がして、うまく立てなくなる。
「どうしたッ!?」
岬であろう手が背中に触れたが、そのまま地面に落ちてしまった。頭が、重い。
「雪乃!!! 」
「おい総悟!!! んなのほっとけ!! 」
新堂の荒々しい声が聞こえる。
こんな殺戮の場で血を見て倒れるなんて、邪魔以外の何者でもない。
薄れゆく意識の中で、私は血の匂いを思い出していた。
吹き出す血は温かい。
先日触れた血も、そういえば温かかった気がする。