惚れられても応えられねーんだよ

「何のつもりですか? 新堂さん」

 私はその声に気付き、薄く目を開ける。

「あ、おい。ちょっと布団はぐってくれ」

「何のつもりって聞いてんだろーがッ!!!」

 怒声に、私は慌てて目を開いて辺りを見回した。電気もついていない、薄暗い自分の部屋。

 すぐ側には、どこか遠くを見ている新堂の顔。

 そしてこの体勢はお姫様抱っこ。

 あれ、今まで私、どうしてたんだっけ?

「人の女抱きかかえて、部屋まで入って、何してんだって聞いてんだよッ!!!」

 岬は、入口のドアからどすどすと近寄ってくる。

 私は、わけが分からず、

「あっ、あわっ……」

 とりあえず声を上げるが、喉が痛い上に、だるくて言葉にならない。

「中島さんと飲みに行って、酔い潰れたんだ」

 新堂に言われてようやく思い出す。あそうだった。それくらい、今は思考がうまく働かない。

「手ぇ離せ」

 岬の聞いたこともないような低い声が響く。

「離したら落っこちるだろうが。だから掛け布団はぐれって言ってんだよ」

「離せ」

 ものすごい速さで、拳銃が新堂の首の下に回り、喉に当たった。

 つまり、私の頭の上でもある。光のない部屋で、その鈍い光は、刃物のようだった。

「わあッ!!!」

 私は驚いてバランスを崩し、新堂の手から落ちそうになる。

「あっぶねーだろーがッ!!! テメェの女がいるだろうよ!!! 」

「俺が撃つとしたら、新堂さんだけですよ」

 新堂は首の真下に拳銃を受け、舌打ちを打ちながらもゆっくりと私をベッドの布団の上におろす。

「ほら……」

 新堂から手が離れた途端、ガシャンと拳銃が床に落ちる音がし、強い力で抱きしめられた。

 すぐに新堂は部屋から出て行く。

「えっ、あっ、あのっ!!!」

 私は自分の意思とは違う方向に事が進んでいくのが怖くて、新堂を呼び止めた。

 だが、彼はこちらを見ようともしない。

「新堂の汚ねぇ手に触れられたことなんか、忘れてください」

「えっ、あの、……」

 私は、思い切り身をよじった。だが、離してくれない。

「あのっ、そのっ……」

「…………、雪乃…………」

 掠れるような声で名前をたった一度呼ばれただけで、一気に力が抜けた。

「……あの、私…………」

 岬の気持ちに、どう応えるべきか分からない。

「あの、私……」

 より一層、岬の腕の力が強まっていく。

「言いたいことは、分かってますよ……」

 ……本当に、伝わっているだろうか?

 そう思いながらも、私はその体勢から逃れることができなかった。

 さっき、新堂を呼んでも振り向いてはくれなかった。

 そう気付いたから岬の腕の中にとどまるわけじゃない。

 そうじゃない……。

 そうじゃない、と心の中で何度も繰り返しながら、ただ岬の腕の中で力を失くし、されるがままに座り込んでいた。


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