惚れられても応えられねーんだよ


「入るぞ」

 勝手知ったる我が家のように、俺はなんでも屋の玄関のドアを開ける。

「おいっ……どうした!?」

「見ての通り、空き巣だよ」

 部屋中がめちゃくちゃに荒らされている。トイレのドアは開けっ放し、靴箱も開けっ放し、特に、机の上には引き出しの中の物と思われるガラクタや、ワケの分からない額を外して裏まで漁る念の入れようだ。

「警察に連絡するわ!」

 雅はひらめくが、

「まあ待て。警察呼んでも犯人が逮捕できるわけじゃねぇのなら、ごちゃごちゃ聞かれて面倒臭ぇだけだ。鍵かけてただの、アソコのチャック閉め忘れてただの」

「俺警察なんだけど!? なんだよアソコのチャックって、そんな事聞くわけねーだろッ!!」

「つーか、閉め忘れてるの警察の方なんだけど」

 俺はなんでも屋のにやけた顔に顔が真っ青になった。

 まままま、まさか……ずっとチャック閉め忘れてたァ!?!?

 さりげなく、さりげなく股間に手をやり、チャックを確認する。

 ちゃんと閉まってる。

「テンメッ、チャック閉まってんじゃねーかぁッ!! 紛らわしいこと言うなッッ!!!」

 俺はなんでも屋に掴みかかると、奴は更に目をにんまりさせ、

「俺は何にも言ってないよ? なんか勝手に勘違いしたの、お前の方だしぃ」

「うるせェ!! 犯人テメーだろ!! 空き巣テメーだろ!! はい、まず公務執行妨害で逮捕な」

「ンで自宅荒らして逮捕なんだよ! じゃあゴミ屋敷のおっさん何回逮捕されんだよ!!」

「あのー……片付けってしちゃダメなんですか?」

 雪乃は遠慮気味に聞いてくる。

「いや、しとこう。片付けは手伝ってもらうが、お前さんはここでは預かれねぇ。おい雅。お前もしばらく和也んちで泊まれ」

「じゃあ宗ちゃんどうするの!? 宗ちゃんここに居るなら私も一緒に居る!!」

「俺ァここにいる。俺んチはここだからな。ま、しばらくの間だよ。言うこと聞け。もしかしたらお前目当ての犯行かも知んねーだろ? この前変な奴からメール来てただろ」

「人の携帯勝手に見た!? 最悪、最低!」

「……オイ、帰るぞ」 

 俺は、くるりと玄関の方を向くと、雪乃に言う。

「こんな所に置いて行けねぇ」

「えっ、でも……。でも、まだお金余ってるから、ホテルでも……」

「総悟はいつ帰って来るかわかんねーし、こんないつ寝首かっ斬られるかわかんねぇような所にも置いていけねぇ。ホテルだって金が続かねーだろ。働いてもねーのに」

「…………」

「総悟の部屋が空いてる。あそこ使え。総悟が帰って来るまでだ。その方がアイツも色々心配しなくて済むだろ」

「…………、はい……じゃあ、宗さん……。お世話になりました」

「あれっ……片付け手伝ってって俺……言ったよね?」

「あ、ちょっと、新堂さんに言ってきます!!」

 雪乃は先に家から出る俺を慌てて追いかけ、

「あのっ、片付け……」

「いーんだよ。自分チのことは自分がした方がいいだろ。他人が色々片付けたって後であれどこやったっけ? ってなるのがオチだよ。さ、帰るぞ」

 俺はそのまま先を急ぐ。しかし、後ろから全く声が聴こえず、えらく黙っているなと思ったので振り返って見る。荷物が重いのか、片付けが気になるのか、足が進まないようだ。

「荷物持ってやっから」

 俺は両手の荷物を奪って持ってやる。

「……楽しかったです。宗司朗さんち」

「あぁ……。あそこ、テレビがあるからだろ。お前の部屋も総悟の部屋もねーもんな……。テレビが見たいんなら俺の部屋にあるから貸してやるよ」

「…………」

「なんだー? 返事もできねーのか?」

「あっ、いえっ、はいっ! ありがとうございますッ!」

「さぁて、今日の晩飯は何かなー……」

 俺は無意識に鼻歌を歌いながら先へ進む。

「……新堂さん、なんか楽しそうですね」

「おえっ!? そうか? いやまあ、アイツが被害届出したら面倒なことになってたが自分で犯人掴まえるんなら仕事が減る。そういう楽しさだよッ! あそうだ。寮着いたら総悟に電話しとけよ。 寮に戻ることになったら喜ぶだろうぜ」

「えっ、どうしてですか?」

「そりゃよそは心配だろ。いくらなんでも屋もヘタな奴じゃねえとは分かってても、寮がより安全なのは明白だ」

「……そっか……」
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