惚れられても応えられねーんだよ
王道な女の子らしさに惹かれないわけがない
♦
「すげーんだよ、すげーんだよ……ほらぁ」
「ほぉー」
夏輝がぱかりと開いた弁当箱の中を見た一同は、感心の溜息を出した。
四角い弁当箱の中には、半分ふりかけごはん、半分オカズがぎっしりしかも彩よく入っている。
本日加納は講義の時間より早く学院に来たため、生徒達に囲まれ束の間のランチタイムを楽しんでいるのであった。
「桜ちゃん料理がうまくてさ。ほらあ、これ! 鶏肉を砂糖と醤油で味付けしてんのがめちゃうまくて!」
「そんなに見せつけられたら味見したくなっちゃうね」
コンビニのおにぎりを手に持つ加納は、弁当を酷視しながら言った。
「ダメダメ―! センセは自分の分あるじゃん!」
夏輝は加納が手に持つ、握り飯のみの弁当を見て言い切った。
「あんたねー、センセイは作ってくれる人いないんだからちょっとくらい味見させてあげたっていいじゃない。ね、センセ」
夏輝と同期であるボブカットの理沙(りさ)は、ずけずけと加納めがけて言う。
「お弁当か、僕も欲しいな」
年齢は一つ上の柔らかな空(そら)はにっこり笑顔で、夏輝に言った。
「ダメダメ―、これは絶対俺の!……けどさ、これならいいよ」
思いもよらず、バックの中からもう一つタッパーを出してくる。
「何これー!?……」
理沙は蓋を開くなり、「カステラだ!」と夏輝を見た。
「それならいいよ。ほんとは、みんなで食べてって言われてたから」
「ほんとはって何よ、ほんとはって。最初っから出しなさいよ」
甘い物に目がない理沙は、弁当をよそに早くもカステラに手を出した。
「ほーお……カステラ……」
加納は構わず次々食べる理沙を見た。
「おいっしー!! これあんみつ屋のカステラよりおいしいかもしれない!!」
「だろだろー!! これ朝も食ったんだー」
「じゃあどれどれ、俺も一つ」
「あ、先生のはこっち」
言いながら夏輝は更にタッパーを出してくる。
「先生だけ別―?」
理沙が口をもごもごさせながら聞く。
「あ、底に入れたせいで若干潰れちゃってるけど、味はおんなじだから」
夏輝はにかっと笑って見せた。
「あ、こりゃどうも……」
思いもよらなかった差し入れに、加納はしばらく手の中の物を見つめる。
「けど先生、桜ちゃんが先生のこと変な人って言ってたよ」
「え゛」
加納は夏輝を見つめた。
「そりゃあまあ、そうよね。どうせ桜さんの前でもぼーっとしてたんでしょ」
図星の加納は、返す言葉がない。
「……他にはなんか言ってた?」
消え入りそうな声で夏輝に聞く。
「他ぁ……うーん。……あ、あんみつがどうとか言ってたかな」
「まさかイキナリあんみつ出したの?! 前言ったじゃん! 女の子はあんみつよりパフェなんだって!」
理沙は、平たいこちらの目を見ながら言い放つ。
「んでぇ、まだなんか言ってたな……」
「なになにー!? まあ変な人と思われるのが妥当よね」
理沙と夏輝は一致して盛り上がる。
それをよそ目に、加納はタッパーの蓋を開いて中を見た。
美味しそうなカステラが、3つも入っている。
「先生……」
「えっ?」
加納は夏輝の声に、我に返る。
「桜ちゃん、なんかしたいって言っててさ、俺待ってる間暇だからって。けど、何してもらっていいか分かんなくて」
「夏輝待っている間、ねえ……」
加納は複雑な表情で、遠くを見つめた。
「どこかで働いたら? 無理そう?」
理沙が聞く。
「うーん……」
「桜さんは何か資格とか持ってるんですか?」
久しぶりに空が口をきいた。
「あ、前桜美院の病院の方で事務やってたんだった。そういえば先生、あの話どうなった?」
「あぁ、本人には言ったんだけど、事務は今人手が足りてるから掃除ならあいてるって」
「嫌じゃない? 事務から掃除婦なんて」
理沙が言う。
「うーん、そうだなあ……」
「わざわざ働かなくてもいいんじゃない? 夏輝の面倒見るって仕事が一応あるんだし」
「帰って飯があるって最高だよ! マジで!」
夏輝は嬉しそうに言うが、理沙は、
「好きな物作ってくれたらいいけどねー。うちのお母さんなんか、嫌いな物あっても全部食べなきゃいけないから最悪よぉ。私もう二十歳だってゆーのに」
「桜ちゃんなんか、いーっつも好きなもん作ってくれるんだー」
夏輝は、上機嫌で笑う。
「あそう」
加納はそれに、相槌を打った。
「……やめなさいよ、夏輝。先生、嫉妬してるから」
「べっ、別にしっ……」
加納の焦りを見て空が、
「加納先生はモテまくりでいろんな女性がいるから全然嫉妬なんかしませんよ、ね? 先生」
「……それもどうなの?」
加納は、飽きれ顔で空を見た。
「すげーんだよ、すげーんだよ……ほらぁ」
「ほぉー」
夏輝がぱかりと開いた弁当箱の中を見た一同は、感心の溜息を出した。
四角い弁当箱の中には、半分ふりかけごはん、半分オカズがぎっしりしかも彩よく入っている。
本日加納は講義の時間より早く学院に来たため、生徒達に囲まれ束の間のランチタイムを楽しんでいるのであった。
「桜ちゃん料理がうまくてさ。ほらあ、これ! 鶏肉を砂糖と醤油で味付けしてんのがめちゃうまくて!」
「そんなに見せつけられたら味見したくなっちゃうね」
コンビニのおにぎりを手に持つ加納は、弁当を酷視しながら言った。
「ダメダメ―! センセは自分の分あるじゃん!」
夏輝は加納が手に持つ、握り飯のみの弁当を見て言い切った。
「あんたねー、センセイは作ってくれる人いないんだからちょっとくらい味見させてあげたっていいじゃない。ね、センセ」
夏輝と同期であるボブカットの理沙(りさ)は、ずけずけと加納めがけて言う。
「お弁当か、僕も欲しいな」
年齢は一つ上の柔らかな空(そら)はにっこり笑顔で、夏輝に言った。
「ダメダメ―、これは絶対俺の!……けどさ、これならいいよ」
思いもよらず、バックの中からもう一つタッパーを出してくる。
「何これー!?……」
理沙は蓋を開くなり、「カステラだ!」と夏輝を見た。
「それならいいよ。ほんとは、みんなで食べてって言われてたから」
「ほんとはって何よ、ほんとはって。最初っから出しなさいよ」
甘い物に目がない理沙は、弁当をよそに早くもカステラに手を出した。
「ほーお……カステラ……」
加納は構わず次々食べる理沙を見た。
「おいっしー!! これあんみつ屋のカステラよりおいしいかもしれない!!」
「だろだろー!! これ朝も食ったんだー」
「じゃあどれどれ、俺も一つ」
「あ、先生のはこっち」
言いながら夏輝は更にタッパーを出してくる。
「先生だけ別―?」
理沙が口をもごもごさせながら聞く。
「あ、底に入れたせいで若干潰れちゃってるけど、味はおんなじだから」
夏輝はにかっと笑って見せた。
「あ、こりゃどうも……」
思いもよらなかった差し入れに、加納はしばらく手の中の物を見つめる。
「けど先生、桜ちゃんが先生のこと変な人って言ってたよ」
「え゛」
加納は夏輝を見つめた。
「そりゃあまあ、そうよね。どうせ桜さんの前でもぼーっとしてたんでしょ」
図星の加納は、返す言葉がない。
「……他にはなんか言ってた?」
消え入りそうな声で夏輝に聞く。
「他ぁ……うーん。……あ、あんみつがどうとか言ってたかな」
「まさかイキナリあんみつ出したの?! 前言ったじゃん! 女の子はあんみつよりパフェなんだって!」
理沙は、平たいこちらの目を見ながら言い放つ。
「んでぇ、まだなんか言ってたな……」
「なになにー!? まあ変な人と思われるのが妥当よね」
理沙と夏輝は一致して盛り上がる。
それをよそ目に、加納はタッパーの蓋を開いて中を見た。
美味しそうなカステラが、3つも入っている。
「先生……」
「えっ?」
加納は夏輝の声に、我に返る。
「桜ちゃん、なんかしたいって言っててさ、俺待ってる間暇だからって。けど、何してもらっていいか分かんなくて」
「夏輝待っている間、ねえ……」
加納は複雑な表情で、遠くを見つめた。
「どこかで働いたら? 無理そう?」
理沙が聞く。
「うーん……」
「桜さんは何か資格とか持ってるんですか?」
久しぶりに空が口をきいた。
「あ、前桜美院の病院の方で事務やってたんだった。そういえば先生、あの話どうなった?」
「あぁ、本人には言ったんだけど、事務は今人手が足りてるから掃除ならあいてるって」
「嫌じゃない? 事務から掃除婦なんて」
理沙が言う。
「うーん、そうだなあ……」
「わざわざ働かなくてもいいんじゃない? 夏輝の面倒見るって仕事が一応あるんだし」
「帰って飯があるって最高だよ! マジで!」
夏輝は嬉しそうに言うが、理沙は、
「好きな物作ってくれたらいいけどねー。うちのお母さんなんか、嫌いな物あっても全部食べなきゃいけないから最悪よぉ。私もう二十歳だってゆーのに」
「桜ちゃんなんか、いーっつも好きなもん作ってくれるんだー」
夏輝は、上機嫌で笑う。
「あそう」
加納はそれに、相槌を打った。
「……やめなさいよ、夏輝。先生、嫉妬してるから」
「べっ、別にしっ……」
加納の焦りを見て空が、
「加納先生はモテまくりでいろんな女性がいるから全然嫉妬なんかしませんよ、ね? 先生」
「……それもどうなの?」
加納は、飽きれ顔で空を見た。