夜香花
「ねぇ爺。父上って、どんなお人だったの? 強かったの?」

 あるとき深成は、爺に問うてみたことがある。

「そりゃあ強かったさ。党の者、誰も敵わんかった」

 懐かしそうに言う爺の話に、深成は目を輝かせて聞き入ったものだ。
 爺は、父親のことはよく話してくれたが、母のことは話してくれなかった。

「女子は己で相手は選ばん。お前は父上が、これと思った女子に産ませた、父上のお子ぞ。それだけで十分ではないか」

 ずっとそう言われてきた深成は、その言葉に疑問も持たなかった。
 そもそも深成が物心ついた頃には、すでに爺と二人だったのだ。
 周りの子供がどういう育ち方をしているかなど、わからない。

 細川屋敷に出入りするようになって、他の女子と話すことも増え、何となく、人並みの知識も得ることが出来た。
 それでもまだまだ未熟だが。

 色事に関しての知識は、もっぱら千代から学んだ。
 千代とは、そう長く一緒にいたわけではないが、あまり若者のいない屋敷内では、自然と喋る機会も増える。
 すぐに深成は千代と仲良くなった。

 千代は深成から見ても、魅力ある女子だった。
 幼い深成には、そこまでわからなかったが、千代は女子の忍びの典型らしく、その身体を十分に使って仕事をするのを得意とする。
 そのような女子であれば、放つ魅力は生半可なものではない。

 しかし千代は、同じ下働きの男には、言い寄られても一切相手にしなかった。

---女子は、自分で相手を選ぶことはないって、爺は言ってたけどな---
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