夜香花
 不思議に思っていた深成は、いつものように頼まれた花を千代に差し出して言った。

「ねぇ千代。彦蔵さんが、いつも千代を見てるよ。きっと千代のこと、好きなんだね。ほら、これを千代にって」

 差し出された小さな花を、千代は手に取るなり、投げ捨てた。
 彦蔵は屋敷の下男だ。
 うだつの上がらない、ひょろりとした男だが、大人しく優しい。
 決して嫌な人物ではなかった。

 だが千代は、事も無げに投げ捨てた花を踏みつけて笑った。

「ふん。大した情報も持ってないような、ただの下男のくせに。身の程を知りなってんだ」

 あまりの態度に、深成は呆気に取られた。

「ち、千代。彦蔵さん、いい人だよ? 千代、たまに来るお侍さんとは、親しげにしてるじゃない」
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