夜香花
 殿の使者や、どこぞの大名からの使者などが、たまにこの屋敷にも来る。
 そういう人らには、千代は嬉々として擦り寄っていくのだ。
 鼻の下を伸ばした、下心見え見えの男よりも、彦蔵のほうが、よっぽど誠実なのではないか。

 が、千代は鼻を鳴らした。

「ふん。何も知らない子供が、知ったような口利くんじゃないよ」

「千代が教えてくれたんじゃん。男なんて、ちょっと色目を使えば他愛もないって」

「そうさ。でもねぇ、私のこの身体は、それこそ心に決めた、一等好きなお人のものなのさ。そのお人の命でもない限り、あんな男に身を任せるなんざ、反吐が出るよ」

 そう言って、千代は、ふふっと笑った。
 男好きな千代だが、そんな千代にも心に想う相手がいるらしい。

「千代。そのお人って、どんな人なの? 千代の、いい人なの?」

 俄然興味が湧き、深成はわくわくと、千代に身を乗り出した。

「そんな簡単に落とせるようなお人じゃないさ」

「え、千代にも、そんな人がいるの?」

 千代は、身体はもちろん、顔立ちだって男好きのする整った顔だ。
 どんな男だって、千代がその気になれば、ころっと参りそうなのに。

「大体そんな簡単に落ちるような男に、この私が骨抜きになるわけないだろ」

 どこか誇らしげに言う千代に、深成はただ、感心するばかりだった。
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