夜香花
---でも、今はそうだけどさっ。こいつ、性格悪いじゃん。全然優しくないし。それに、女の子にあんなことするしさっ!!---

 昨夜のことを思い出し、深成は一人で憤慨した。

---千代、見る目ないんじゃないか! ちょっと顔が良いからって、女子に優しくできない奴なんて最低なんだからっ---

 ぷんすかと心の中で真砂を罵倒していた深成は、真砂が小さく息をついたのにも気づかなかった。
 いきなり伸びた手に、顔面を掴まれる。

「ふにゃっっ!!」

「……お前なぁ。絶好の機会に、何をぼんやりしてるんだ」

 片手で深成の顔を掴みながら、真砂が言う。

「ぜっ絶好の機会って何さっ」

 離せーっと暴れる深成を軽く押さえつけながら、真砂は心底呆れたように、上体を起こしつつ手を離した。

「文字通り、寝首を掻く絶好の機会だろ。折角待ってやったのに、何を一人で百面相してるんだか」

 きょとんとする深成に、真砂は胡乱な目を向ける。

「お前は俺を殺すために、ここにいるのだろ」

「あ」

 ぽん、と深成が拳を手の平に打ち付けた。
 そこまで言われて、やっと思い出したようだ。
< 104 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop