夜香花
「どこに行くのさ~」

 言いながらついてくる深成をそのままに、真砂は家を出た。

 しばらく歩いて、真砂は河原に出た。
 いつだったか、深成を放り込んだ川だ。

 真砂のすぐ後ろを歩いていた深成は、慌てて少し下がった。
 また放り込まれたら堪らない。

 が、真砂は別に深成を振り返ることもなく、傍の岩に刀を置くと、帯を解いた。
 ばさ、と着物を落とす。

「~~~っ!!」

 いきなり目の前で裸になられ、深成は真っ赤になって、回れ右をした。
 背後で、ざぶざぶと水音がする。

 深成はそろそろと首を回し、振り返った。
 真砂は一旦水に消えると、川の中程で顔を出した。

 少し安心し、深成は川辺に歩み寄り、ふと傍の岩に目をやった。
 その瞬間、深成の目がきらりと光る。

「あんたも十分無用心じゃんっ! 刀もらっちゃうもんね~っ」

 真砂が置いていた刀を掴み、深成は川の中に向かって、勝ち誇ったようにふんぞり返った。
 真砂が振り返り、刀を頭上に掲げ、片手を腰に当てて不敵に笑う深成を見る。

 だが、特に慌てることもなく、むしろ馬鹿にしたように、ふん、と鼻を鳴らした。
 そしてそのまま、また水に潜ると、さらに向こうに泳ぎ出す。
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