夜香花
「しかし、殿様がいるわけでもないのに、よくあの女が従ったものだな」

 千代は乱破の一人だが、如何せん気位が高い。
 色気しか取り得のない女といえばそうだが、その色気を十分に活かせることの出来る美貌も身体も備えている。
 それを駆使して、諜報活動を行うのが主な役目だ。

 ただ高い気位故、雑兵などの相手はしたがらない。
 諜報要員のくせに、我が儘なのだ。

 ふふ、と清五郎は、口角を上げた。

「頭領の命令だと言えば、否も応もないわ」

「俺からの指示としたのか」

「真砂もそう考えると思った故だ。違うか?」

 にやりと笑う清五郎に、真砂は、ふん、と鼻を鳴らした。

「真砂の指示には、嬉々として従うからな。上手くいけば、それなりの褒美をやればいい」

 それなりの褒美とは、身体の奉仕のことである。
 千代は真砂にベタ惚れだ。
 豊満な身体でもって、いつも真砂を誘惑する。
 何度か誘いに乗ってやったことはあるが、別段真砂は相手が千代でなくてもいいのだ。

 真砂にとっては、千代も他の女子も同じ事。
 単なる欲望の捌け口でしかない。
 真砂にとって大事な者など、ありはしないのだ。
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