夜香花
「んっしょっと」

 ぎゅ~っと着物を絞り、岩の上に広げてから、深成はようやく、自分の着物を羽織った。
 単は真砂に取られているので、袿だけだが。

 真砂は刀の水気を丁寧に拭き取ると、ようやく深成に単を投げて寄越した。
 そして裸のまま、枯れ木を集めて火を熾しにかかる。

「……あのさぁ、あんた、恥ずかしくないの」

 目のやり場に困り、深成は怪しく視線を彷徨わせながら言った。
 真砂が訝しげな目を向ける。

「女の子の前で、素っ裸でさぁ」

 赤くなりながら言う深成に、真砂は、きょろ、と辺りを見回した。

「女?」

「ちょっと」

 ぎ、と睨む深成に、真砂は、ふんと鼻を鳴らす。

「ああ、お前か。何だよ、これぐらいで恥ずかしがってちゃ、女忍びなんかにゃなれないぜ」

「な、何でよ」

「女は女ならではの、強烈な術を使えるだろ」

 きょとん、とする深成に、また真砂は馬鹿にした目を向ける。
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